新鮮な驚きに満ちた、季節感溢れる日本酒
初めてしぼりたての生酒を飲んだ時の驚きは忘れられない。
いつもさらっとした辛口な日本酒ばかり飲んでいたので、火入れをしていないフレッシュな生酒は、こんな味わいもあるんだ!と衝撃的だった。それ以来、寒い季節に鍋を囲み、キリッと冷えた生酒を飲むのは冬の醍醐味だ。
千曲川最上流にある、『黒澤酒造』の ”井筒長・純米原酒”『百姓物語』。
年末が近づくと発売されるこの新酒は、水飴を思わせるような、甘すぎずすっきりとした香り。フルーティーで、とろっとした口当たりと奥行きのある旨味。ワイングラスで飲むと華やかな香りがより楽しめる。
長い冬が終わり、待ち遠しかった春が来る頃に飲めるお酒がある。
4月中旬ごろに限定発売される、”八千穂高原氷雪貯蔵『井筒長』純米生原酒” 。
美しい白樺林のある、標高1600メートルの八千穂高原スキー場で、3ヶ月厳冬期を越す純米酒。雪の中で熟成させたお酒を、暖かい春の到来に感謝しつつ飲む幸せ。なんとも格別な味わいだ。
秋の訪れとともに、9月9日解禁される「ひやおろし」も楽しみのひとつ。
季節感溢れる日本酒は、1年を通してずっと美味しさが続いて行く。
大自然の中にある酒蔵
『黒澤酒造』は標高800メートルの北八ヶ岳山麓、佐久穂町にある。
歴史ある古き良き町並みに建つ蔵は、澄んだ空気と雄大な山々に囲まれている。
1858年創業当時より「地域に根ざした酒造り」を志している酒蔵だそうだ。
長野県発祥の品種のお米だけを使い、酒蔵の近くには自社田もある。
仕込み水は、蔵内にある深井戸水を使う。この自然の恵みを受けた軟水で美味しい千曲川伏流水は、ボトル販売もされている。「名水あるところに銘酒あり」と言われるだけあり、水とお米が命の日本酒。信州の風土を大切にする『黒澤酒造』は、日本酒造りに理想的なとても恵まれた自然環境にある。
「食べ物あってのお酒と考えている」と、6代目社長の黒澤孝夫さん。
「生酛づくりのお酒は穏やかな味わい、冷やしてもお燗でも食事と合います」。
伝統ある「生酛造り」は、お米を摺り潰す「山卸し」に時間をかける。この作業で酒蔵独自の微生物に変化が生まれ、生酛特有の香味やコクが生み出される。酒蔵の造り手たちの努力のもと、今では30種類以上ある商品のうち、6割ほどが生酛づくりで醸造されている。
そんな生酛造りのベストセラーのひとつ、”純米酒・生もとづくり”『マルト』。
透明感のある香りと、コクと厚みのあるきれいな味わい。冷やでも燗でも合うので1年中楽しめるお酒だ。蔵元が言う「酒に五味あり」、”甘酸辛苦渋”の絶妙なバランスが象徴される美味しさだ。
世界中の和食や寿司ブームに伴い、海外でも注目され続ける日本酒。
『マルト』は海外、特にアメリカでも人気が高いそうだ。和食だけでなく濃厚な味付けの食事とも合いそうな深い味わいに、なるほどとうなずける。
これからどんな酒蔵にして行きたいか尋ねると、
「いろんなことをやってきたので、また基礎をきちんと振り返りたい」と、黒澤さん。
守りたい伝統と、新しく試したいことのバランスをきちんと保っている。この兼直な人柄だからこそ周りに信頼され、『黒澤酒造』の日本酒は、地元だけでなく世界からも賞賛されるのだと思う。