Bosqueso Cheese Lab.

Food producer | Restaurant
長野県佐久市

チーズも車も、ものづくりにはスピード感

多くのシェフに支持され、その美味しさからいくつもの賞を受賞する実力を持つ
『Bosqueso Cheese Lab. ボスケソ・チーズラボ』。

ホンダのF-1レーシングカーをデザインしていた空力エンジニア、是本健介さんのチーズ工房は、オープンして5年目を迎える。最初は自宅で趣味として作り始めたチーズ。
今は理想のチーズをに向かって日々研究を続ける「チーズエンジニア」に人生が一転。

福岡県出身で、本田技術研究所のある宇都宮に住んでいた是本さん。
佐久に奥様のお祖母さんの家があり、度々訪れているうちに「信州で食に携わる楽しい仲間」が増えて行く。近くには質の高い生乳を生産する酪農家や、乳用山羊の牧場があり、チーズ作りに適した環境。えいっ!と思い切ってチーズ屋さんになることを決めた、思いきりがよくて人生を楽しんでいる人だ。

 

スタート当時は13種類ほどだったのが、今では20種類以上作るようになった。
年間約30トンの生乳から3トンのチーズができる。それを「是本さん自身 + 0.2人」たった1.2人で作っている多忙な毎日を送る。

鮮度が大事な生乳。100個以上あるモールドを「3時間ごとに1個づつ反転」させたり、集中して手を動かしながら、同時進行で他のチーズの工程や熟成管理を考える。毎日目が回るように忙しいマルチタスクな人だ。

彼の人生のストーリーを聞いていくうちに、美味しさと成功の秘訣は、エンジニアとして培ってきた「プロジェクトを進める能力」にあるのではと思う。

「全てを瞬時見極めながら、緻密にスピーディーに動く」。
「問題にぶつかったらその場で解決策を見つけ、すぐに対処する」。

「レーシングカーはレースに勝たなければ価値はゼロ。車の100%の性能を出そうとしても、期限に間に合わなければ0点」。そんな「スピード感が全て」の環境で17年間過ごした是本さん。「チーズもオンタイムで作らないとね、勝つぐらい美味しくなければ」と、冗談半分に笑う楽しい人だ。

もの作りのどの部分がいちばん好きかと尋ねると、「工学=ものをよくすること」とすぐに返事がかえってきた。「ものを向上させていく、そのプロセスが楽しい」、やっぱり実験室の部分もやめられない面白さ。そんな根っからエンジニアの是本さんだが、実はずっと経営にも興味があったらしい。

今ではチーズエンジニア、経営者、サービスと全部をバランスよくこなす
「最高チーズ責任者 CCO」として、「生乳と人間」両方と向き合うとても器用な人だ。地頭がいい人は本当になんでもできるとつくづく感心。前職よりお客さんとの距離が近いのも、チーズづくりの楽しさだそう。

 

 

ソフトとハード、両方が大事

そんな『ボスケソ・チーズラボ』がおもしろいのは、
「森のチーズ」 (= Bosque森 + Quesoチーズ )というオルガニックで柔らかな世界と、ラボ(実験室)という理論的なふたつが、うまく融合しているところだ。

是本さんは「信州にスイスアルプスの様なくつろぎの風景をつくる」という夢を持つ。
里山に家畜を放ち、森林が放置され荒れていくのを防ぐ。のどかな放牧の風景を信州に増やして行きたいと言う。合理的だけれど「環境、動物、人」すべてにメリットがあり、なるべく無駄を減らす、エコロジカルな仕組み。

例えば、チーズを作るときに生乳の90%はホエー(清乳)として残ってしまう。
栄養いっぱいのホエーを豚にあげて、近くの森や竹林に離し飼いし、森を豚の力できれいにしてもらう。羊は使われていない牧草地に放ち、草を食べて育つ。馬の堆肥を使ってマッシュルームを育てたり、一緒に畑を耕す。そしてその動物がいる景色を見て和み、安らかな気持ちになる人間がいる。

使っていない土地を活用する事で、荒れた森林が改善され、「乳製品、食肉、農産品」が産まれ、環境改善と共に人々のメンタルヘルスも向上する、理にかなった仕組みだ。

2019年には、『ボスケソ』から歩いて3分の「望月馬事公苑」の隣に『ボスケソ・ウマバル』を立ち上げ、カフェでチーズと乳製品を使った料理を提供している。

馬を眺めながら食事ができ、地元の美味しい日本酒やワインとペアリングも楽しめる。いろんな種類のチーズの美味しい食べ方を知ってもらう事で、信州のチーズと酪農文化が自然に広まっていくようなお店だ。

「標高900mの春日に羊や馬が放牧する風景が広がり、訪れる人たちが自然の中で癒される」。
のどかな風景の一部だけれど、動物たちは地元の産業と繋がり貢献する。乳製品を通して、放置された山、森林、農地を活性化させて行くシステム。

いつか『ボスケソ』に向かう途中、高原で動物たちが戯れる風景と出会える日がくる。訪れる人たちが美味しいチーズを食べながらピクニックする光景が目に浮かび、考えただけでなんだか嬉しい。

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