純粋な和食の、まっすぐな美味しさ
『お料理れもん』は本格的な和食のお店だ。
お刺身、焼き魚、煮物、だし焼き卵。どれも正統派の美味しさ。
だけどちょっと可愛らしい店名から、勝手にイメージを膨らませてしまう人も多いらしい。「最初はパスタ屋だと思われたり、冷やし中華をオーダーするお客さんもいました」と笑う濱口雄介さん。話し相手の気持ちを和ませる、とても気さくな人だ。
なんとも朗らかな濱口さんは、15年ほど銀座や六本木の料亭で修行した経験と腕前を持つ。最初は大手の有名料亭に勤め、厨房で黙々と料理に専念していたそうだ。次に勤めたのは、師匠と2人だけのカウンター式の店だった。
お客さんと交流しつつ、きちんと料理にも集中する。
マルチタスクの難しさと楽しさ両方を学んだ。その店で料理がどんどん面白くなり、腕を磨く充実した日々を過ごした。「ライブ感溢れるカウンターで、お客さんからたくさんの刺激をもらった」。その経験から、自分の店を立ち上げる時にカウンター席を設けるのは大切なポイントだったそうだ。
Uターン職人として、佐久市臼田に帰郷した濱口さん。
2008年に今の店を立ち上げるにあたり、自分の師匠の店『お料理しまだ』と、両親の洋食店『グリルレモン』を掛け合せて、『お料理れもん』と名付けた。人柄の見える、なんとも温かくて真っすぐな店の命名だ。
実は３代飲食店を営む濱口家。
『お料理れもん』のある建物は、父方のお爺さんが『みずの食堂』を創業する時に建てられたそうだ。昭和48年からは両親が『グリルレモン』と店のスタイルを変えてオープン。食堂から洋食、洋食から和食とめぐり巡って３代で築き上げた、臼田のローカル文化を感じさせてくれるストーリーがある。
臼田に根付く、土産土法の食文化
佐久総合病院から徒歩2分の場所にある『お料理れもん』、ランチ時間は特に賑わう。開店当初から人気メニューの１つ、「焼き魚定食」は備長炭を使い、皮はパリッ、中はふっくらの美味しさ。こだわりのお米はつやつや光る臼田産の「切原米」。米作りが盛んな佐久地域、中でも「切原米」の持つ弾力性が好きな人は多い。
この店には臼田特産の「サン・プルーン」を使った珍しいメニューがある。
日本でプルーンが開発されたのは50年以上前のこと。
当時果樹園を営んでいた土屋喜八郎氏が、日本スモモの台木に、西洋スモモの在来種を接いだのが始まりだそう。そのプルーン発祥の地で濱口さんが考え出した、「プルーン丼」は店の人気メニューのひとつだ。
酢漬けにしたカリカリ梅のような風味のプルーンを刻み、温かいご飯と混ぜ、信州サーモンをたっぷりのせた「信州サーモンとプルーン丼」。
程よく脂ののったサーモンのコリコリした歯ごたえと、もっちりと弾力のある切原米とプルーンの相性は抜群。長寿の里と言われる長野県。このメニューは、カロリーと塩分のバランスがとれた美味しい長寿レシピとして、「長寿の里、佐久プロジェクト」に選ばれた。
フルーティーな甘みと爽やかな酸味を持つプルーンは、肉料理にもぴったり合う。プルーンのソースと肉を浸け込んだ「信州豚とプルーンの焼肉丼」も人気が高い。
体を整えてくれる食を目指す
料理人は働く時間が長く、健康管理を怠りやすい。
そこで濱口さんは、5年ほど前から、走ったり筋トレをして体力づくりをしている。「体を鍛えたら、味覚も冴えたし、出汁の味をみるときにも迷いがなくなった」と言う。そこから食と身体の繋がりをもっと意識するようになった。
地元で育つ有機野菜、米、魚と肉。そこにある水と米で作られる地酒。なるべく臼田産で、安心して食べられて健康管理にも繋がる。そんな食を提供し続けたいと意欲的だ。
「その風土でよく育つものは美味しい」。「その美味しく育ったもの同士を組み合わせて、食材たちがより美味しくお互いを支え合う」という考えに、うなずかずにはいられない。野菜がたくさん食べれて、満足感が高いけれど、カロリーが低い。そんな夢のようなメニューを考案し続ける濱口さんだ。
「宴会の時代はもう終わった、これからは家で食べる時代」と思い、コロナ禍の前からテイクアウトメニューの研究をしている。
例えば、ゆっくり家飲みしたい時のための「おつまみ弁当」。お酒のあてが12種類も入っていて、満足感も栄養のバランスも満点。
「もちろんお店で食べてもらうのがいちばんだけれど、家で食べても美味しいメニュー、食べ方、新しい調理法をいつも考えています」と笑顔で語る。
ただ食べるだけでなく、健康と結びつく「身体をつくる食」を提案して行きたいそう。「いつもお客さんから情報やインスピレーションを貰い」日々店を進化させている頼もしい料理人だ。