”まる”くて、穏やかなカフェ
長野県佐久市平賀。その静かな一角に、柳澤真理さんは昭和30年頃にお祖母さんが営んでいた古い薬局を改造し、ご主人の零さんと『Maru Cafe』をオープンした。
2014年に開業以来、季節感溢れる地元の食材に焦点をあてた、とても味わい深く丁寧に作られたメニューにファンは多い。真理さんが作る野菜料理はやさしくて美味しい。
真理さんは、「ボーっとしていて、おやつにレタスをかじっているような、素材の味が好きな子供だった」らしい。今は控えめながら軸がしっかりある、とてもしなやかな人だ。『まるカフェ』という店名が、何よりしっくりとくる。この店にいると気持ちが落ちついて、なごんだ空気に包まれる。
東京で過ごした大学時代に、世界の貧困問題について学んだ。
「その時初めて自分がいかに恵まれて育ったかに気づき、故郷の佐久地域に感謝の気持ちが生まれました」。農業が盛んで、食が豊かな故郷の佐久地域。その大切な土地にいつか恩返しをしたいと思ったという。
そんな学生時代にいつか自分のお店を持とうと夢を描いた真理さん。その時すでに店名は決めていたそうだ。巡る縁、継続、循環といった彼女にとって大切なこと全てを含んだ「まる」という形。それが念願だった店、『Maru Cafe』のルーツだ。
真理さんと零さんが夫婦で営むカフェは、佐久地域の生産者への感謝の気持ちに満ちている。野菜、穀物、卵、肉。全ての食材を、どんな人がどんな所でどんな風に作っているか熟知している。二人の役割は、地元の良いものを「集めて」「組み合わせて」「手を添えて知ってもらう」というスタンス。メニューの全てに生産者を尊ぶ気持ちや、ストーリーが隠れている。
「人と物の魅力を伝えるために、料理は手段の1つ」と考えるという真理さん
「この野菜はどう調理すればいちばん美味しいだろう」。
ちょっと蒸してからグリルしたり、野菜の旨味や特徴を最大限に引き出すのがとても上手だ。お客さんと「野菜の美味しさを共感」できる瞬間がいちばん嬉しいそう。
地に足がついた毎日
カフェをオープンした数年後には、お隣に『Maru Cafe 商店』をオープン。
野菜がより美味しく食べれる「甘酒と味噌ディップ」、噛むと大地のような香ばしさが広がる「ザクザク・クッキー」。零さんが選りすぐったスパイスで作る「信州黒豚カレー」や、ナチュラルワインのセレクションもある。素材の美味しさにとことんこだわった加工食品は、大切な人へのプレゼントとして発送もしてくれる。
今のプロジェクトは『Maru Cafe 商店』の隣に、宿泊施設『Maru Cafe Annex』を立ち上げること。
滞在中、地域の美味しい食材とワインのペアリングを楽しんでもらったり、一緒に料理したり。ゲストのペースで心向くままに時間を過ごし、佐久の魅力を感じ、味わってもらう。そんな滞在ができる空間をこつこつと造り上げていくステップを、夫婦で楽しみながら進めている。
「今の時代は色んな事に迷いがちだけれど、ひとつひとつ自分の手を動かしてやってみると、その過程の中に気づきが生まれる」と、零さん。その過程を繰り返すうちに、地に足がついた生活への手応えを感じ始める。地に足がついた生活とは、その瞬間と向き合う事なのだと思う。
人が手を加えるよりも、自然が作ってくれる素材を大事にする『Maru Cafe』。ずっとこれからも2人に会いに行きたい場所だ。
真理さんは「色んな人たちが行き交う、様々な出会いやきっかけを作れる店にしたい」と話す。「この地域のことをもっともっと知りたい。周りの皆んなにとっても良いことを続けて行きたい」と、笑みがこぼれた。