森と山のなんでも屋さん
日本は国土の約7割が森林といわれる緑の多い国。
中でも長野県の森林率は70%以上で、信州は自然に恵まれたのどかな地域だ。
佐久穂町にある『株式会社 吉本』は明治20年創業以来、森林と共に歩んできた。人が山から受ける恩恵を忘れず、植林と生産のバランスを保ちつつ環境を守る。『森林認証 FSC®』を取得し、森を守る取り組みに積極的だ。
6代目の由井正宏さん。
佐久穂町の本社で専務を勤め、群馬と岩手の事業所に足を運ぶ多忙な日々を送る。「伐採、造林、製材、土木建材生産、森林管理、木工と、うちは木の事ならおまかせの『森と山のなんでも屋』です」と笑顔。
どの産業も山あり谷あり、時代の流れと共に苦労は多い。
嬉しいことに、日本の林業は10年ほど前から、少し活気が出てきているそうだ。
無秩序に伐採していた事も重なり、安価で重宝がられた海外の木材は、国内への輸入量が減ってきた。そこで「高品質で為替の影響を受けない、価格の安定した国産木材」が見直されている。「国内産業を守り、地域の木を活かしたい」という考えから、公共物件に国産材を使う意識も定着しつつある。長野県の人工林の55%ほどを占める「カラマツ」は、真っ直ぐで強度があり土木建築材として人気が高い。
「一度人の手が入った山は、放っておくと荒れてしまう」。長野県だけでなく、全国で約6,000ヘクタールの社有林を管理する『(株)吉本』。
人工林は二酸化炭素の吸収や保水、地盤形成などに役立つ大切な資源だ。次世代に豊かな森林を残そうと、社員50名が毎日生き生きと働いている。
山にどっぷりの生活
実は大学からは東京に出て、千葉で会社勤めをしていた由井さん。
佐久穂町に帰郷後、30歳で『(株)吉本』に入社した。「自分も外で働いたので、会社勤めする社員の気持ちが理解できて良かった」と話す。今では都会生活を忘れてしまうほど、どっぷり山にひたる日々だ。
休日は小学生のお嬢さんと山奥の上流に川釣りに行くのが趣味。
「何匹イワナが釣れるか競争しながら、娘と過ごす時間が楽しい」と、目がほころぶお父さん。釣った魚は自宅の庭先で塩焼きにし、わいわい食べるのが最高。
山遊びが大好きで、山菜やキノコ狩り、猟も楽しむ。
山が総合的に楽しめる環境を作りたいと、仲間でキャンプ場を作るアイデアも温めている。最近は人工的なキャンプ場も多いので、もっと「ワイルドな山に篭るような場所」が作りたい。川から水を引いて、テントを張る。隠れ家のような楽しい山生活が過ごせる場所だ。
「チャンネルを増やし、いろんな接点を持つことで自分の枠を広げていきたい」と由井さん。
社会活動にも力を入れ、地元小中学生の林業体験授業や、八ヶ岳登山道の木道整備、社有のブルーベリー畑で食のイベントを開催したりと、地域との繋がりを大切にしている。以前は木材の海外輸出をしていた時代もあった。そのぐらい産業を盛り上げられたら若い世代の雇用にも繋がる。「こんな会社に勤めてみたい、と言われるような会社にするのが夢」と飾らない笑顔だ。
先代が培ってきた、地域との繋がりや信頼関係を大切にしながら、チャンスは逃さず様々な可能性を広げていく。由井さんは頼もしい「森と山のなんでも屋さん」だ。