「手刻み」から見えてきたこと
職歴20年の桐原満さんは、とても気さくで話しやすい大工さんだ。
相手の気持ちをくみとる柔らかな雰囲気と、安心感を感じさせる人柄。建築士でありながら、やっぱり現場がいちばん好きで、自分の仕事に誇りを持つ職人。
大工の父親を見て育ち、物作りの魅力に触れ、子供の時から自分も家づくりがしたかったという。10年前に家業の建設業を引き継ぎ、『二代目桐原建設』と、名乗ることにより決意を新たにした真っすぐな人柄だ。現在は『Local Craft』と総称し、建設業『二代目桐原建設』と、薪ストーブ設置販売『キリハラストオブ』二つを運営している。
そんな彼の趣味と息抜きは美味しいビールを飲むこと。
人口1000人の南相木村には居酒屋がなくてちょっとさみしい。軽トラの後ろにビール・タップとお酒のつまみを積んで、「移動ビール居酒屋」をやってみたいと笑う。エネルギッシュでビール好きな職人さんだ。
伝統的な職人技術の継承を大切に思ってきた桐原さんは「大工として『手刻み』を学ぶことで、木の性質や美しさをより知ることができた」と話す。
東京工芸大学で建築士の勉強をした後、まず見習い大工として働いた。その後、地元で大工の伝統技術を学びながら、自然素材の良さを家づくりに取り入れてきた。木、瓦、壁、すべて土に還る自然素材。人と地球、そして何よりも地域にやさしい家づくりを目指している。
家づくりは、木の物語
佐久地方には、樹齢60〜80年の、家作りに最適な真っ直ぐで強度に優れたカラマツが沢山ある。この高品質の木を梁や柱に使い、「3世代に渡り、住んで残せる家づくり」を目指している。寒さが厳しい佐久地方の気候を考え。断熱性や蓄熱性に重点を置いた丈夫でシンプルな自然に寄り添う家づくりだ。
地元でカラマツ林に囲まれて育った桐原さんにとって、木の伐採から製材の工程を学ぶのはとても自然なプロセスだった。伝統技術の知識から、用途によって木材選別する目を持ち、手作業で捩れや歪みを調整する腕を持っている。ほんとうに頼れる大工さんだ。
そんな桐原さんの建てる家からは、木のあたたかな温もりが伝わってくる。
シンプルな間取りには、木組みや木目がとても美しく生かされている。木の「経年美化」が待ちどおしくなるような家。数世代に渡って住む人の目線で考えた、飽きのこないデザインだ。
なるべく地域の中で補う、無駄のない社会
桐原さんの作業場がある南相木村は、人と人の距離がちかく、温かなコミュニティー。
土に還る素材に重点をおく桐原さん。家づくりは素材だけでなく「人の住み方」全てが繋がった、エコシステムと考えている。
地域の木材を暖房エネルギーとして使用できる薪ストーブは、家を暖めるだけでなく調理にも使える。製材の工程で出てくる端材の部分は、薪として無駄なく使えて、資源の活用化につながる。
桐原さんの考えはとても自然で理にかなっている。
食も住まいも「なるべく地域の中でものが完結するような、無駄のない生活環境」を目指す。
地域を盛り上げて、雇用を生み出す産業を根付かせ、食や資源を無駄なく補っていく。「地域循環型社会」を実現するべく、まずは家づくりに携わる職人と技術の継承に日々力を注いでいる。
「ぜひこんな人に家づくりの相談をしてみたい」と思う、とっても頼もしい大工さんだ。