片井工務所

Carpenter
長野県佐久市

顔が見える誰かのために

兄と弟の二人で営む「片井工務所」は、日本でも珍しくなった伝統的な木組みの家を作る。

二人ともが建築士であり大工でもあるこの工務所では今もなお、棟梁体制を敷き、分業はしない。打ち合わせから設計、施工、完成後の保守まで片井兄弟が責任をもって面倒を見てくれるのだ。打ち合わせをしてくれた人が家をつくり、今後のケアにも携わってくれるのは、思っているより何倍もの安心感を生む。

大工だった父親やその周りの職人さんたちを見て育ってきた弟の片井健児さんは、大学で建築を学んだ。
大学では大きな世界を知ることが楽しくて都市計画を専攻していたが、やればやるほど現場を知らずに設計することにはがゆさを覚えるようになった。

卒業後は同級生の多くが設計事務所に就職していく中、現場を自分の目で見て体感するべく、東京の大手ゼネコンで現場監督として働くことを決意した。入った当初は現場についていくのがやっとというシビアな世界。だがそこには学生時代知りたかったリアルがあり、やりがいと達成感を感じることができた。大きなプロジェクトにもいくつか携わり、一生の仕事にしていきたいと思うこともあったがだんだんと本心が見え始めた。

「自分は顔が見える誰かのために建物をつくりたい」

 

 

世代を越えて使い続けられる家へ

28歳で佐久に戻り、家業の片井工務所の仲間入りをした。
弟子の頃から手刻みを磨き上げてきた父。一足先に家業を継いで、木組みの家をより良いものにしようと試行錯誤している兄。
今思うととても恵まれた環境だったと片井さんは語る。

片井工務所が建てた家には、地元の風や水、土を吸って育った木の息吹が感じられるが、それは木を“生かしている”からだ。
自然の中で育った木は形を変えても生き続けるから、捻れたり、膨らんだり、沈んだりする。中には暴れん坊もいるけれど、それを見極め、認め、ひとつひとつ木の個性に寄り添う。
そうして出来上がる家はとても頑丈で、世代を越えて使い続けられる。

木だけでなく家に使われている漆喰や土、石などの自然素材は、年を重ねるごとに味わいが増し、その変化を経年美化として楽しむことができるのだ。
古民家と呼ばれる昔の家が今も手入れされながら愛され続ける理由が、まさにそれである。

 

 

丁寧に正直にやり続ける

それから片井さんは、こんな素敵なアイデアも聞かせてくれた。
「今後39BARでイベントをやるとき、それぞれのブースにお揃いのタープがあったらいいなって思っているんです」
それは佐久で育った木を使った、木組みの大工としてのアイデアが詰まった折りたたみ式のタープだ。持ち運びもでき、販売する商品を並べる天板もついている。
「39BARの一員として、自分に何が出来るだろうって、勝手に一人で考えてるんです」と言ってその模型を見せてくれた。
将来このタープが並ぶイベントに、たくさんの笑顔があふれることを想像すると自然と顔がほころぶ。

「木組みの家づくりをしていると、特別だと言われることがあるけど、僕たちはただ丁寧に、正直にやり続けているだけなんです」と片井さんは言う。
木組みが珍しくなってしまったがゆえに、まるで芸術作品のように捉えられてしまうこともあるが、木組みは単なる構法のひとつ。そこに作家性を持たせすぎないことも心がけているそうだ。

豊かな自然と風土に恵まれた地元の産物でつくるのは、住むひとのための家。
経年とともに美しく表情を変えていく家を、これからも真正面から正直に作り続けていく。

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